第二章 新しいユニフォーム 九 切り札

「両チーム、センターに集合」


 藤本が呼びかけた。


 日下部が歩き出した。


 次に、早田と加賀美が歩き出した。


 それに呼ばれたかのように、他の選手達もセンターに向かった。


「矢島、目、どうした?」


 藤本が呼びかけた。


 それを聞いて、洋がようやく立ち上がった。しかし、足に根が生えたかのように、洋は動こうとしない。


 体育館を覆い尽くしたあれほどの熱狂が、いつしか静寂に変わっていた。


 夏帆が洋を見つめている。


 ロイヤルブルーに浮かび上がる背番号17だけが、止まった時間に佇(たたず)んでいるようだ。


 夏帆は泣きそうなった。


 いや、泣いたっていいじゃないか。たった163・5センチの男が、あんな大きな男達を相手に闘い抜いたんだ。親身になって泣いて何が悪い……


 と、そう思った、その時、


 パーン。


 大きな手が背番号17を叩いた。


 思いがけない目の行動に、夏帆は驚いた。いや、その場にいた誰もが驚いた。


「行こうぜ」


目が言った。


 踏ん切りがついたのか、洋もようやく歩き出した。

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