第二章 新しいユニフォーム 九 切り札

 洋の体が応援する女子の中に飛んでいく。


 近くにいた女子達が、まるで地割れの如く左右に分かれた。


 そして、割れ切ったその先には……スポットライトを浴びているかのように、夏帆だけが一人ぽつんと浮かび上がっていた。


 自分に向かって飛んでくる洋がゆっくりと、そしてはっきりと見える。あっ、退(ど)かなきゃ。でも……


 洋が夏帆の横をコマ送りのように通り過ぎていく……


 と、夏帆がそう思った瞬間、


「目」


 と、叫んだかと思うと、洋は体を右に反転させてボールをコートの中に放り込んだ。


 洋はそのまま背中からコートの上に落ちた。


 目がボールを手にした。彼は迷わずジャンプシュートを放った。


 ボールが綺麗な弧を描いて飛んでいく。


 この瞬間、全ての声が無くなった。


「ザッ」


 決まった!


 一・二年の女子が大歓声を上げた。


 しかし、


「ノーカウント、試合終了」


 藤本のホイッスルは、ボールが目の手を離れる前に鳴っていた。ブザービーターは起こらなかった。


 三年の女子から勝利の喜びが沸き起こった。ぬか喜びに終わった一・二年の女子からは溜め息だけが聞こえて来た。


 コート上では、九人の若人達(わこうどたち)がまだその場に立ち竦(すく)んでいる。


 コート外では、洋がまだ倒れたままだ。


 そばには、夏帆が立ち竦んでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る