第三章 春季下越地区大会 二 夏帆の迷い

 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


 由美は、


「はい」


 と大きく返事をした。


 ドアが開くと、


「今、大丈夫?」


 と、夏帆が顔を覗かせた。


「うん、いいよ」


 と言うと、由美は本を閉じた。


 山並高等学校の寮は全て個室である。


 部屋は長方形で、壁には引き違い窓があり、学習机、洋服ダンス、ベッド、エアコンが備え付けられている。床はフローリングであるが、由美はどうもカーペットが嫌いらしく、敷いていない。


「お邪魔しま~す」


 上下揃いのジャージにパーカーを着込んだ夏帆は、そう言いながらベッドに腰掛けた。


「由美の部屋って、いつも綺麗に整理されているよね」


「夏帆の部屋だって、綺麗じゃない」


「駄目駄目。部活はきついし、勉強も大変だし、それだけで私は精一杯。洗濯だって、洗って乾燥まで出来るんだから、畳んでタンスに仕舞ってくれないかなあって……そんなロボットがあってもいいよね」


「あはははははっ……夏帆って、案外無精者なんだね」


「だってさあ、今までお母さんがやっていたことを全部自分でしなければならないんだから……由美だってそうでしょ」


「そうだけど……でも、自分で選んだ道なんだから、わがままは言えないよね」


「……あのさあ、今日何してたの?」


「何って?」


「バスケットのみんなと……」


「あっ、そうだ。夏帆にはまだ言ってなかったよね。ごめん、自分のことだけで頭がいっぱいで……」


 夏帆の顔から感情が消えた。証明写真を撮るような無表情な顔になった。

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