第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 洋は鷹取のことだと思った。あいつ、もう入部届を出したんだ。


「彼が入ったことでオフェンスは更に力を増した。これだけを見れば、全国制覇を出来ると思っている」


「あのう、口を挟んで申し訳ないんですが、それならどうして洋を勧誘されるんですか。そもそも、バスケットって背の高い人がするスポーツですよね。洋はお世辞にも高いとは言えないんですが……」


 正昭が尋ねた。彼もまた藤本の真意を計りかねているようであった。


「空中戦と言われるように、確かにバスケットは背の高い方が有利です。しかし、バスケットは何もリング下だけが戦場ではありません。コートを支配することもまた勝負の分かれ道になります。相手との力が互角であれば、それは尚更です」


 正昭は藤本から洋に視線を移した。


 洋は正座したまま視線を畳みに落としていた。


「日下部は言ってたよ。あいつなら、コートを支配できるかもしれない。ただ、勘違いされては困るが、入部しても君のレギュラーが保証されているわけではない。君の言うとおり、中学レベルで終わるかもしれない」


 しかし、それでも洋は何も言わなかった。


「君の家庭事情は校長から聞いて知っている。まあ、色々と思うところはあるだろうが、後は君次第だ」


 そう言うと、藤本は正昭を見て、


「夜分遅くにお邪魔をして失礼致しました」


「いえ、こちらこそ」


「夕飯はどうされます?よかったら……」


「いえ、それには及びません。家内が待っていますので……」


 と言うと、藤本は立ち上がった。

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