第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 座卓を囲うようにして、立っている洋の手前に先生が、そして向かって右側に信子と夫の正昭(まさあき)が座布団を敷いて座っていた。


 洋はチラッと先生を見た。てっきり担任が来たと思っていた洋は、見たことのない人にちょっと驚いた。誰だ、この人は?


「ああ、どうも」


 と、男性が言った。


 正昭が既に用意していた座布団を洋に勧めた。


 洋は促されるままに座った。


「では、改めて。私は藤本と言います。山並バスケット部の顧問をしています」


「えっ」


 洋は少なからず驚いた。


 あの日以来、ひょっとしたら勧誘があるかもしれないと思っていたが、全くそんな様子はなかった。自分のようなチビに勧誘なんてあるはずがない。しかし、だからこそ、ほんの少しでも勧誘と言う二文字を期待した自分に、洋は未練と屈辱を感じてもいた。


「どうして私が今日ここに来たのか、おおよその見当はつくよね」


「分かりません」


「入学式の日、君は1ON1をしたよね」


「はい、しました。でも、それだけです」


「彼はうちのキャプテンで日下部武(くさかべたけし)と言う。その彼が私に勧めたんだよ。あいつなら、やれるかもしれないって……」


「何をですか?」


「全国制覇だよ」


「そんな訳ないじゃないですか。バスケットは五人でするものだし、だいたい、僕のレベルは中学止まりです。あの人の言っていることは間違っています」


「日下部のポジションは君と同じポイントガードだ。勿論(もちろん)、レギュラーだ。今はね」


「言ってる意味が分かりません」


「うちは全国制覇にかなり近いところにいる。そこに、また一人凄い奴が入ってきた。君と同じ、一年生だ」

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