第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 同じ日の夜。


 洋は晩ご飯を済ませると、二階の自室に戻り勉強を始めた。


 この時期、高校一年生なら、勉強よりもテレビを見たりゲームをしたり、娯楽を優先すると思われるが、いずれこの家の養子となる身である以上、わがままは言えない。大学の学費まで面倒を見てもらうのだから、洋のプレッシャーは相当なものだろう。しかし、だからこそ、勉強は自室に籠もる良い言い訳にもなった。他人の家で寝っ転がって居間でテレビを見るなんて息が詰まりそうだ。


 理系が苦手な洋は、とにかく数学に拘(こだわ)った。数学をそれなりに克服すれば、物理も化学もなんとかなる。


 そうして、十分くらいが過ぎた時だった。


 ドアのノック音が聞こえた。


「はい」


 ドアが開くと、信子が、


「洋さん、学校の先生がお見えになってるので、下まで来てもらえるかしら」


「あっ、はい」


 信子はドアを閉じると先に降りた。


 こんな時間に一体何の用事だろう?揉め事なんて何も起こしていないのに……洋はそんなことを思いながらスタンドの明かりを消すと、参考書は広げたまま下に降りた。


 縁側を通って居間の奥にある客間まで行くと、少し深呼吸してから襖(ふすま)を開けた。

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