第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 車が走り去るまで藤本を玄関で見送ると、三人は家の中に入り、信子が鍵を閉めた。洋は何も言わず二階へ上がろうとした。


「洋君、ちょっといいかな」


「はい?」


「話がある」


 洋は胸の内で迷惑なことだと思いつつも、正昭の後を付いて行った。


 客間に戻ると、三人ともさっきまで座っていた座布団に再び座った。


「それで、どうなんだい?君はバスケットをする気があるのかい?」


 正昭がそう言った。隣では、信子が不安そうに洋を見つめている。


「バスケットはもうしません。今の僕には、現役で大学に合格するという目標があります。バスケットをする余裕なんてありません」


「君はバスケットが好きかい?」


 この質問はちょっと洋の意表を衝(つ)いた。反論する何かを考えようとしたが、どうしても言葉が浮かんで来ない。


「信子から聞いたんだが、君は近くの空き地でドリブルの練習をしているそうじゃないか」


 洋は思わず正昭を見た。


「ここに来てからまだ一月も経っていないけど、洋さん、夕方近くになると、何も言わずどこかに出掛けてたわよね。洋さんのことだから間違ったことはしていないと思っても、やっぱり気になって、一度だけ後を付けたことがあるの。私にはバスケットのことなんて分からないけど、ボールが手に吸い付いているように見えて、あれは本当にびっくりしたわ」

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