第三章 春季下越地区大会 一 新しい部員

「清水、そう言うことだ」


「先生、上越地区には行かなくていいんですか?」


「行けるのであれば、それに越したことはないが、さすがに遠いからな。上越の情報は俺の方で何とかする」


「分かりました」


「明後日の試合に備えて、今日明日の練習は軽めにする。時間は二時間程度。フリーな時間も作るので、早田、笛吹、目はシュートのチェック、加賀美、滝瀬、山添、菅谷はゴール下での競り合いの練習、日下部と奥原はドリブルとパスのチェックをするように」


「先生、僕は?」


「矢島は、もう言ってるだろ」


「ええっ」


「カベ、後は任せる。羽田、何かみんなに言っておくことはあるか」


「……役に立ちたいです。みんなで日本一になりたいです。よろしくお願いします」

 全く予想していなかった言葉に、誰もが一瞬ハッとしたが、すぐに爽やかな緊張感がその場に流れた。


 日下部が由美の前に来た。


「山並バスケット部キャプテンの日下部だ。このチームをよろしく頼む」


 と言うと、日下部は右手を出した。


 差し出された手を、由美はじっと見た。何をどうすれば良いのか最初は全く分からなかった。が、はたと気がつくと、由美は両手で日下部の手を握り、


「よろしくお願いします」


 と言って、また頭を下げた。


 藤本が先頭を切って拍手をした。


 釣られて、メンバー全員も拍手をした。


 清水も、由美を迎え入れることには何のためらいもなかった。だが、その表情はなぜか芳しくなかった。


「俺は清水と羽田にビデオの使い方と偵察の説明をしてくる」


 と言うと、藤本は二人を連れて出て行った。


 日下部は藤本達が出て行ったのを見届けると、


「よし、じゃあ、練習を始めるぞ。今日の掛け声当番は誰だ?」


 と、声を上げた。


 チアリーダー部もそろそろ練習を始めようとしていた。


 しかし、夏帆だけは由美の動向に引きずられて、どうしても練習に気持ちが乗って行かなかった。

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