第三章 春季下越地区大会 一 新しい部員

「この子には情熱がある。だから、俺は入部することを認めた。しかし、肩書きはマネージャーであっても、雑用係にする気は更々ない。ビブスの洗濯やドリンクの用意などはこれからも各自で行うように」


「じゃあ、どうするんですか」


 鷹取が尋ねると、


「もちろん、羽田を一戦力と見なして扱う。彼女の仕事は既にある……清水」


「はい」


「お前は羽田と一緒に中越地区大会に行ってこい」


「えっ?」


「優勝候補の筆頭である中越平安の偵察だ」


「偵察って?」


「初日は、清水と羽田も皆(みんな)と帯同、二日目と三日目は中越大会の偵察。日程は下越と同じだ。後でビデオを渡すから、しっかり撮ってこい。試合会場はその時に伝える」


「あっ……はい」


「何だ、清水、不服か?」


「いや、そう言う訳ではありませんが……」


「お前がもたらす情報は確実に勝敗の行方を左右する。だから、任せる」


 清水はちょっと驚いた顔をした。それから、二呼吸(ふたこきゅう)くらいの間を置いて、


「はい」


 と返事をした。


 洋はそんな清水を横目で見ていた。


「羽田はまず他校だけの雰囲気に慣れてこい。雰囲気に飲まれないのもまた練習だ。もし、余裕があれば、清水から色々と教わるように」


「はい」


「うちに新戦力が加わったように、中越平安にも新戦力が加わっているはずだ。しかも、強豪チームには必ずと言って良いほど即戦力が入る。念のため、平安のHPも調べておくように。新入生の紹介って感じで、バスケ部に入りましたってコメントがあるかもしれないからな」


「はい」


 清水と由美は声を揃えて返事をした。


「先生」


「何だ、目?」


「俺が中学の時、いましたよ。凄い……って言うよりはデカいやつが……黒人のハーフで、俺達は進撃の巨人って呼んでました」


 藤本は思わず苦笑いをした。


「で、お前はそいつに勝ったのか?」


「潰されました」


 二年・三年のメンバーは少なからず驚いた。目ほどの実力があっても、全国に行けなかった理由が、まさにこれであったからだ。

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