第三章 春季下越地区大会 四 試合当日

「バスケットはどうするの?」


「バスケットは辞めませんよ。ただ、ちょっと試したいことがあって……」


「試すって、何を?」


 正昭はバックミラー越しに洋を見ながら、


「バスケットと何か関係があるのか?」


 と言うと、洋は、


「そうです」


 と返事をした。


「それって、どんな関係なの?」


「それは……ちゃんと話すと長くなりそうなので、帰ってから話します」


「そうか。じゃあ、楽しみに待ってるよ」


 と言うと、正昭は朗らかに笑った。


 正昭の運転する車は、そのまま駅には向かわず、一旦学校の正門へと向かった。


「あっ、あの子です」


 洋がそう言うと、車は彼女の近くで止まった。


 由美はドアを開けると、


「どうも、羽田と申します。今日は駅まで送って頂いて、ありがとうございます」


 と、元気よく挨拶をした。


「いいえ、こちらこそ」


 と、信子が言うと、


「失礼します」


 と言って、由美も車に乗った。


 由美を誘ったのは、洋からである。寮住まいである由美が駅まで行くには、バスか自転車のどちらかを使うはずだ。寮は学校の近くにある。学校は正昭の自宅から駅まで行く途中にあるので、寄り道するのは大したことではない。由美のことを気遣ってやるのであれば、誘うのは至極当たり前の流れであろう。ただ、それとは別に、洋には由美に尋ねたいことがあったのも誘った理由のひとつである。

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