第三章 春季下越地区大会 四 試合当日
「洋さんから聞いたんだけど、マネージャーをされているんですって」
「はい」
「男所帯に女の子一人だと何かと大変でしょ」
「まだ入ったばかりですから、何が大変なのかも分からないですし……でも、へこたれてなんかいられません。目指すは、日本一(にっぽんいち)なんですから」
「いいねえ、日本一か。久しぶりに聞いたような気がする」
運転しながら、正昭がしみじみと言った。
「でも、マネージャーをするにしても、寮住まいだと何かと遣り難(にく)いこともあるでしょ。おばさんで出来ることがあったら、遠慮なく言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「ガールフレンドのお願いは大切にしないとね」
「えっ?ガールフレンドって彼女って意味じゃないですよね?」
「えっ、違うの?」
「違います。矢島には夏帆って言うちゃんとした彼女が……」
「おい、羽田、お前何言ってんだ」
洋が何より尋ねたかったこと、それは紛れもなく夏帆のことだった。ただ、それは飽くまで駅に着いた後の二人きりになった時のことであって、正昭と信子の居る前では、恥ずかしくてとても話せることではなかった。
しかし、正昭には洋の慌てぶりが可笑しかったようで、大声を上げて笑うと、
「まさか、ここで洋の素顔が見られるとはな」
と気分良く言った。
「あら、そう。私はてっきり……」
「早とちりはおばさんの悪い癖ですよ」
「でも、こんな可愛い女の子が彼女だったらと思うのは、悪いことではないでしょ」
「夏帆は私なんかよりも、ずっと可愛いです」
「あら、そうなの?じゃあ、今度一緒に遊びに来ない?」
「あっ……はい」
思わぬ展開に、洋は焦った。別に疚(やま)しいことをしているわけではないが、やはり焦った。
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