第二章 新しいユニフォーム 四 新しいユニフォーム
同じ頃、藤本は三人を連れて職員室に向かっていた。
「先生」
「何だ、鷹取」
「何をするんですか」
「ユニフォームを取りに行くんだよ」
「えっ、ユニフォーム?」
「デザインを一新した、真新しいユニフォームだ」
「いいなあ、先輩達は……」
「何言ってるんだ、お前のもあるぞ」
「えっ、そうなんですか」
「何を不思議がってる。シューズ買いに行ったとき、サイズ測っただろ」
「……あっ、言われてみれば……でも、話の流れで測っただけで、鈴木さんからは何も言われなかったと思うんですが……」
「きっと、びっくりさせようと思って、黙ってたんじゃないのか。あいつはそう言う所があるからな。とにかく、ベンチ入りには関係無く、ユニフォームは全員に支給する」
藤本は力強く言った。
何はともあれ、ユニフォームをもらえるのは嬉しい。鷹取だけでなく、これには清水も立花も少しばかり笑顔を覗かせた。
職員室には宅配便の箱が幾つかあった。三人はそれらを分けて持ち運ぶことにした。
体育館に戻る途中、鷹取は藤本の背中を見ているうちに、前々から少し気になっていることを藤本に尋ねようと思い立った。今なら、上級生に気兼ねせずに済む。
「先生、どうしてフルコートプレスの練習をするんですか」
「それはどういう意味だ?」
「この一週間、先輩達の練習を見てて思ったんですが、先輩達の動きって本当に凄いと思うんですよ。まだ素人の俺にバスケットの凄さなんて分かるはずはありませんが……でも、矢島も言ってました。これだけの攻撃陣がいれば、プレスの練習をするよりも、もっと攻撃に磨きを掛けた方が良いんじゃないかって」
「負けたからだよ」
「負けた?」
「早いものだな。あれからもう一年になる。このユニフォームは、その雪辱(せつじょく)を果たすために作ったものだ。詳しい話は後でしよう」
鷹取は何も言わず藤本の後を付いて行った。
先ほどまではとても大きく見えた、まさに指導者としての風格を、鷹取は藤本の背中に感じていた。しかし、《負けた》と言うたった一言が、鷹取の目に映るその風格を哀れみの烙印に変えてしまった。
勝負の世界に身を投じたことの無い鷹取にとって、試合後に聞くであろう敗者の言葉はどのように聞こえるのであろうか。
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