第二章 新しいユニフォーム 五 練習試合

 夏帆はそんな洋を見るとも無く見ていた。


「藤本先生、お待たせ致しました」


 大きな声で言いながら、つかつかと一人の女性が走り寄って来た。藤本の隣に来ると、メンバー全員に愛想の良い笑顔を見せて、


「一年生の皆さんには、初めましてでよろしかったですよね。どうも、チアリーダー部の顧問をしております、伊藤と申します。今日は私達も練習に参加しますので、どうぞよろしくお願い致します」


 と、ハキハキした口調で言った。


「六月の県大会、つまりインターハイの予選で山並チアリーダー部がバスケットの会場で演技をすることになった。NBAのチアをイメージすれば良いんじゃないかと思ってるんですが、伊藤先生、それでいいんですよね」


「はい、OKです」


 と、とにかくニコニコしながら、藤本の問い掛けに答えた。


 伊藤聡子。山並チアリーダー部の創設者であり、わずか数年で全国大会優勝にまで導いた女傑である。ヘアスタイルは短髪、性格は快活であり容姿端麗ではあるが、しかし独身。年齢は……取り敢えず、ここでは問わないことにしておこう。


「皆さんがプレーをしている最中には、もちろん演技はしません。演技はインターバルとハーフタイムの時に行います。ただ、プレー中に普通の応援はします。三年生を中心に構成された白のチームは三年生の女子が、一・二年生で構成された青のチームには一・二年生の女子が黄色い声で応援します。応援はチアリーダー部だけでなく……」


 と言うと、伊藤は隣にいる初老の男性を見て、


「女子バスケット部も参加します。これは藤本先生からの要請です」


 と、女子バスケット部の男性顧問である安東が穏やかな口調で言った。


「いいか、インターハイともなれば、色んな人が応援に来る。チームによっては、選手・保護者が一体となった大応援をすることもある。公式戦は練習とは全く異なる環境で試合をすることになる。そのような状況に少しでも対応出来るようにするための、今日は練習でもある。集中力は欠かさない、敵の応援に惑わされない。それを念頭に置いて試合をするように。以上だ」


 今日の練習試合は10分クォーター制、インターバルは2分30秒、ハーフタイムは10分で行われる。ハーフタイムを2分30秒としたのは、チアリーダーの競技時間に合わせてのものである。


 講堂側に設置されたスコアボードと長机。鷹取と立花は得点をめくる係、清水はスコアをつける係とポゼッションアローの向きを変える係に、そして彼等に一人ずつ三年生の女子がサポートとして付いた。


 センターラインを挟んで、お互い横一列に並ぶと、


「よろしくお願いします」


 と言った。


 練習試合と言っても、洋と目にとっては、高校生として初の試合だ。彼等の実力が果たしてどこまで通用するのか。


 センターサークルに加賀美と山添が立った。

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