第三章 春季下越地区大会 四 試合当日
山並のメンバーが座っている一画は選手専用の席である。
会場に訪れるのは、選手や関係者だけではない。これから見に来る正昭と信子のような保護者もいれば、バスケット好きな一般の人もいる。一般席とは別にわざわざ選手専用の席を設けているのは、席の奪い合いが起こらないようにするための、運営者側の配慮であろう。
現在、AB両コートで戦っているのは、Bブロックの初戦である。この四チームの勝者が決勝リーグで山並と対戦する。
山並のメンバーはBコートの試合を見ていた。時間はまだ三分しか過ぎていないので、試合は始まったばかりのようだ。
中学時代、洋は高校生相手によく練習試合をしていた。自分達と強い相手と戦わなければ練習にならない。そもそも、顧問の先生が全国制覇を目指していた人だから、練習はきつかったし、高校生相手の練習試合も当たり前であった。
しかし、高校生同士の試合を見るのは、今日が初めてである。洋の目に、この試合はどのように映っているのであろうか。
と、そこへ藤本が来た。
「カベ、どうだ、試合の様子は?」
「……そうですね、これと言った印象はないです」
「そうか……いいか、みんな良く聞け。俺達が使用するのは、このAコートだ。ハーフタイムが始まる三分前にはコートに降りていろ。それから、ユニフォームは白を着用。淡色のユニフォームは汗まみれなので、替えたいと向こうが言ってきた。何か質問はあるか?」
少しばかりの間があったが、誰も何も言わなかった。
「ウォーミングアップは、カベ、お前に任せる」
「はい」
「じゃあ、俺は関係者室に戻る。何かあれば……」
と言って、藤本は由美を見た。
「はい」
と由美は元気よく返事をした。
藤本がその場を離れると、メンバーはまた試合に目を向けた。
同じく洋も試合に目を戻したが、少ししてから、洋は観覧席をざっと見渡した。
正昭と信子はまだ来ていないようであった。
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