前のエピソード――第二章　新しいユニフォーム　二　ハードな練習

　しかし、選手にとって一番嫌な練習がフットワークでもある。面白味は無いし、何よりきつい。

　中でも、洋が嫌いだったのがゴリラステップだった。膝を曲げて、手を床から離さない様にして尚且つ顔を上げて後ろ向きにステップする。ゴリラステップという名称はその恰好(かっこう)がゴリラに似ていることに由来しているのだろうが、尻を突き出してのステップだから、これが本当に恥ずかしい。フットワークに関しては女子も同様の練習をしているので、洋はその様子を見るたびに恥ずかしくないのだろうかと思っている。

　ただ、こんな事を思えるのも、練習開始からさほど時間が過ぎていない間に限る。練習の中盤から後半になると、皆息が上がり、そんな余裕は完全に無くなる。

　フットワークをみっちりやった後はパスの練習。上級生及び洋と目は三角パスを、初心者である鷹取、清水、立花は藤本の指導のもと、三人でパスとドリブルの練習をした。

洋の立場からすれば、いくら経験者であるとは言え、ブランクもかなりあるのだから、いきなり先輩達と一緒に三角パスの練習をさせるのは止めてくれと言うのが本音であったが、どう足掻(あが)いても雰囲気的にせざるを得なかった。

　経験組は日下部に任せて、この時間帯は月曜日から昨日の金曜日まで、藤本は彼等にパス、ドリブルの基本を徹底的に教えた。

　今の鷹取達にとって、このパスやドリブルの練習はつまらないものだろう。経験組の三角パスを見ていたら、余計にそう思うだろう。歴然たる実力差は、彼等に劣等感を与えるだけだ。