第三章 春季下越地区大会 一 新しい部員

「……私は運動神経が全然無くて、それこそ神頼みでしか良くする方法が無くて、中学生の時には七夕の短冊に『もっと機敏に動けますように』とお願いをしたくらいでした。


 もともと、体を動かすのは好きなので、運動神経は無くても、何かスポーツはやりたいと思ってました。バレー部に入部したのは、テレビで春高バレーを見ていたのがきっかけです。鈍くさい私でも憧れだけは一人前で、あんなふうになりたいっていつも思ってました。


 当時のバレー部はとても強くて、市内では無敗でした。全国大会出場も夢ではなくて、学校だけでなく保護者もすごい熱の入れようで、誰もが全国に行けると思ってました。でも、決勝で敗れて、夢は消えました。


 でも、やっぱり周囲はそんなバレー部に対してすごいなあという目で見ていて、勝つ度に『すごいね、また勝ったね』と言ってくるんです。


 皆は素直にそう思っているのでしょうが、私はそれを言われる度に《自分が出て勝ったんじゃない》と、本当に惨めな思いでした。どうせ出られないのであれば、負ければいいのに。そう思ったこともあります。


 私はレギュラーのメンバーが妬(ねた)ましかった。一緒に頑張ろうって言われても、補欠にすらなれない私は一体何を頑張ればいいのか全然分からなかった」


 気持ちが高まり昔のことが思い出されたのか、由美は涙を拭い始めた。


 男子バスケット部員は何も言わず、彼等全員、ただ由美の語るのを待っていた。


 その様子を、夏帆が探るように見ている。


《あれ、由美だよね?》


 そう思いながら、夏帆は遠くから見続けた。


 藤本が由美の肩に手を添えた。

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