第二章 新しいユニフォーム 九 切り札

 はち切れんばかりに集まった生徒達と先生は体育館に熱気と興奮をもたらし、公式戦さながらの様相を呈していた。


 インターバル中、両チーム共口数は少なく、もはやチアのパフォーマンスを見る余裕もなく、体を休めることに徹していた。


 あっという間に過ぎた2分30秒。


 日下部の口にした言葉は「このまま振り切るぞ」であり、笛吹の口にした言葉は

「残り3分、仕掛けるぞ」であった。


 外はもう薄暗い。


 両チームがコートに向かった。


 照明が選手を鮮やかに浮かび上がらせている。


 拍手と声援が体育館を隙間なく覆った。


 そんな中、羽田由美もまた真剣になって見ている一人だった。


 第四クォーター終了間近、早田の放ったシュートがリングとボードの間に挟まった。これによってポゼッションアローの向きが変わり、第四クォーター試合開始のスローインは青チームとなった。


 サイドラインの外、藤本からボールをもらい受けると、笛吹はセンターラインを跨(また)いで立った。


洋はバックコートに下がって、スローインを受けると、


《来るか?》


 と思って、日下部を待ち構えた。しかし、洋の予想に反して日下部はフロントコートで洋が来るのを待っていた。


《スタミナを消耗したのか、それとも様子を探っているのか?》


 と、洋は考えを巡らせつつ、白チーム全体を見渡した。

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