第二章 新しいユニフォーム 七 ハーフタイム

「……矢島を交えて初めてプレスの練習をした時、あいつ、ボールを片手で握って、そのままドリブルの体勢に入ったんだよ。あれ見た時はびっくりしたな。俺や加賀美にとっては当たり前に出来ることであっても、あの小さい体なら、手の平だって大してデカくはないだろ。それでボールを握るんだから、相当練習したんだと思う」


「それは俺も覚えている」


 と、加賀美が言うと、異を唱えるかのように、早田が、


「矢島は良いプレーヤーだとは思うが、目のように凄い選手だとはまだ思えない」


「そうだな。早田の言うとおり、今はまだ良いプレーヤー止まりかもしれない」


「変な言い方をするな」


 早田が怪訝(けげん)そうに言うと、


「俺が矢島と1ON1をして、三回ともスティールされたことは話したが、あいつの本質はそんなことじゃないんだよ」


 加賀美も、早田も、滝瀬も、どういう意味だと言わんばかりに日下部を見た。


「一回目は正直舐めていた。だから、やられたと思った。しかし、矢島もエンジン全開じゃなかったはずだ。二回目は、お互い気合い入れてやったと思う。そして、三回目。あいつはバッシューじゃなく、上履きだった。そのせいで、あいつは切り返しが上手くいかず、一瞬もたついた。俺は抜けると思った。しかし、その瞬間、あいつはダイブしてきた。ボールに向かって飛んで来やがった。気がついたら、ボールは転々と転がっていた」


「飛んで来られたら、誰でもびっくりするだろうが、ただそれだけだろ」


 早田は驚くほどではないと言う様子だったが、日下部は意に介さず、話を続けた。


「あいつはまだ本気じゃない……いや、本性を現していない。だから、次は仕掛けようと思う」


 本性という言葉に、日下部以外の誰もが違和感を覚えた。矢島の本性って何だ?


「カベ、どうするつもりだ?」


 加賀美の目つきが新たな緊張感を生んだ。

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