サブマリン

第三章 春季下越地区大会 十四 決勝

　藤本が立ち上がった。

「タイムアウト、お願いします」

　一方コートでは、トップでボールをもらった早田が、０度の位置までドリブル、シュートを放った。

　が、ボールはリングの根元に当たり、逆サイド側に跳ね落ちた。

　加賀美と島崎がリバウンドに跳んだ。

　が、そこにもう一人の手が伸びた。

　目！

　目はボールを取ると、懐に巻き込むようにボールをキープ、リングに背を向けて着地、と思ったら、右足を軸に後方に半回転、左斜め後方45度にジャンプ、そしてシュートを放った。

「ザッ」

　野上の伸ばした左手はシュートコースに僅か届かず、目のシュートが決まった。

　しかし、立志は目のプレーに気後れすることなく、すぐ攻撃に転じた。

　山並も遅れることなく自陣に戻った。

　ボールは、センターラインを越える前に、福田から野上に渡った。

　野上が一気にセンターラインを越えて来た。

　目がマークに付いた。

　野上は右45度からドライブインを仕掛けた。

　しかし、目がドリブルコースを潰す。

　野上、ここでレッグスルー、二・三回往復させた後、最後は右手から左手にボールを移動させ、そのまま松山にパス。

　松山はシュートを打とうとしたが、山添のディフェンスに阻まれ、多々良にボールを返した。

　多々良はボールを受け取ると、間を置かずにジャンプシュート。

　早田もジャンプ一番、85センチの跳躍力を活かしてシュートカット。

　ボールが早田の指先に当たった。

　リング手前に、ボールが当たった。

　山添と松山がリバウンドに向かった。

　ボールをキープしたのは山添……

　しかし……

「プッシング、青８番」

「えっ、今のが？」

　山添は思わず声を荒らげた。

　審判が山添を睨んだ。

「山添」

　山添はハッとすると、すぐに加賀美を見た。

　加賀美が自分を睨んでいる。

「……すんません」

　小さな声でそう言うと、不意にポンと尻を叩かれた。振り向くと、早田が立っていた。

　早田は何を語ると言うことなく、少しだけ笑みを見せると、もう一度山添の尻をポンと叩いて再び自分の位置に戻った。

　洋は、その一連の様子を、ただ黙って見ていた。

　これまで、山添は冷静にと言うよりは、飄々とプレーしているように思えた。少なくとも、洋にはそう見えた。しかし、それは対戦相手との実力差があったが故のことであり、立志が相手のように実力伯仲となると、胸に潜めた闘志がつい顔を覗かせてしまうのであろうか!?

　審判がタイムアウトを告げた。

　両チーム、それぞれのベンチに戻って来た。

「立志はボックスワンを仕掛けてきた。それは分かっているか？」

「福田が矢島にってことですよね」

　早田が言うと、

「点を取られたら、立志が守備につく前に、速攻を仕掛ける。奴等にボックスワンをする時間を与えるな。早田、お前は矢島と組んでリードオフマンに回れ。目、加賀美、山添は常に速攻すること心掛けろ」

「はい」

「まだ第二クォーターだが、ここは勝敗の行方を左右する第一関門だ。主導権は俺達が取る。絶対に奴等のペースにさせるな」

「はい」

　一方、立志北翔はと言うと……

「向こうの17番は早くも動きが鈍くなってきている。福田、スタミナ勝負なら、お前の方が上だ。徹底的にマークして奴のスタミナを奪え」

「はい」

「リング下はもっと積極的に行け。８番はファウルが二つだ。松山、分かってるな」

「はい」

「この試合、最後までもつれる。試合終了のブザーが鳴るまで絶対に気を抜くな」

　両チームはそれぞれ指示を受けると、再びコートへと戻った。

「目」

「何だ？」

「チャンスがあったら。これをやる」

　と言って、洋は背中に手を回して、手首を動かした。

「分かった」

　野上がエンドラインの外に出た。

　審判がボールを渡した。

　野上はオーバーヘッドで多々良にボールを出した。

　多々良はいきなりセットシュートの構えを見せた。

　条件反射的に、早田がシュートカットに跳んだ。

　しかし、シュートはフェイント。

　とほぼ同時に、島崎が逆サイドへ移動。

　多々良は島崎にパス。

　一瞬フリーになった島崎は、すかさずシュート、ネットを揺らした。

　二階席から立志の応援が沸き上がった。

　洋がボールを拾った。

　立志の背中が早くも離れて行こうとしている。

***********************************************************************************

作品のお知らせ

カクヨムでは『サブマリン』を連載中ですが、kindle、iBooksでは有料で作品（長編二作、中編一作、短編多数）を公開しています。ただ、有料と言いましても、それほど高いものではないので、是非手にして頂けたらと思います。

作品はこれから順次紹介したいと思っています。

本日の紹介作品

タイトル：ラブレターが舞った

　400字詰め原稿用紙換算枚数　31枚（縦書き）

　所要読書時間30分～60分。

　前書き

　この小説は、短編小説を書いては出版社に送っていた時の作品のひとつです。

　時期は二〇〇四年三月です。

　書くきっかけは、もう覚えていません。

　おそらく、痴呆老人に関することをテレビもしくは雑誌で見て、色々と考えあぐねた末に書いたのではないかと思います。

　ですから、お話の内容は少々暗いです。

　しかし、このような現実を体験している方は大勢いると思います。

　明日は我が身と思って、そのときの心構えとして読んで頂けたら、何かしらの役に立つかもしれません。

　あらすじ

　公造は一人息子の立てた二世帯住宅に、妻の友子と一緒に暮らしていた。

　ある日のこと…

　公造は友子にラブレターを書くことにした。

　そして、それをいざ渡そうとした時、公造は友子から意外なことを聞かされる。

　それは、公造の母、ツネに対する本心であった…