第三章 春季下越地区大会 十四 決勝

 一方、立志北翔サイドでは……


「それは本当か?」


「はい、山並の17番は中学時代に準決勝で対戦した時のポイントガードです」


 塚原の返事に、野上が答えた。


「ただ……」


「ただ、どうした?」


「印象に無いんです。一度スティールされたことは覚えていますが、それ以外は……少なくとも、第一クォーターで見せたようなプレーはしていませんでした」


「それが今や山並のポイントガードか。高校レベルであれだけ視野の広いポイントガードはそうそういるものではない。何があったのかは分からんが、今はそれを言ってる場合ではない。福田」


「はい」


「次はあれを仕掛ける」


 立志の選手に緊張が走った。


「奴は守りづらいか」


 キャプテンの多々良が尋ねた。


「……頭しか見えない」


 福田の返事は多々良のみならず、そこにいる全員に疑問符を生じさせた。


「ただでさえ背が低いのに、更に腰を落として来る。攻撃も守備も、顔が見えないから、何を見ているのか、何を考えているのか、全く分からない」


「愚痴はいい。今は17番を抑えることだけを考えろ。野上」


「はい」


「お前には攻撃の負担を掛けるが、頼むぞ」


「はい」


 ブザーが鳴った。


 藤本は椅子に座り、塚原は選手を見送った後も立ったままであった。



 第一クォーターはジャンプボールを山並が取ったことから、第二クォーターは立志のスローインから始まることになった。


 洋はコートに向かうとき、チラッと波原を見た。


 三回目ともなると、さすがに気がついたらしく、波原も洋を見た。


《あっ、気づかれた》


 洋はそう思ったが、むしろ好都合になるかもしれないとも思った。


 山並がディフェンスに付いた。


 審判が福田にボールを渡した。


 さあ、第二クォーターの開始だ。


 福田から野上にスローインが渡った。


 目がピタッとマークに付いた。


 多々良がトップに向かった。


 それを見た野上は左サイドからドリブルインを敢行、しかし、目がそれを許さない。


 野上はフォローに入っていた福田にパスを戻した。


 福田はすかさず多々良にパス。


 多々良は迷うことなくスリーポイントを打った。


 ボールはリングの内側に当たると、二・三回リングの内側でガガンと弾かれ、外に出て行った。


 山添と松山がリバウンドに跳んだ。


 しかし、タイミングが合わず、ボールは山添の指先に当たり、再度空中を舞った。


 山添と松山が再びジャンプした。


 先にボールを手中に収め掛けたのは松山だった……


 が……


 審判のホイッスルが鳴った。


「イリーガルユースオブハンズ、青8番」


 ファウルを宣告された山添が手を挙げた。


「山添、余計なファウルはするな。もっとどっしり構えろ」


 ベンチにいる日下部が檄(げき)を飛ばした。


 一年生である鷹取、立花のみならず、二年生もこれには驚いた。コートに立っていなくても、これぞキャプテンの威厳である。ベンチにいる全員、改めて襟を正した。


 山添が日下部に小さく一礼した。


 福田がエンドラインの外に出た。


 スルスルッと島崎が動いた。


 福田はワンバウンドさせて島崎にスローイン。


 島崎、インサイドからジャンプシュート。


 それを見た加賀美は、今立っている位置から自分の歩幅一歩分、リングから離れた。


 ボールはリング手前に当たって跳ね上がり、加賀美、島崎、山添の頭上で跳ね上がった勢いはピークに達した。


 三人の見上げる視線がボールに集まった。


 ジャンプ!


 リバウンドに向かう三人の手が落ちて来るボールに伸びて行く。


 三つ巴の競り合いとなるのか?


 と思われたとき、島崎と山添の視界からボールが消えた。


 ボールの落下とジャンプのタイミング、ポジショニングが寸分違わず合致したのは……


 加賀美!


 洋がパスをもらう体勢に入った。


 加賀美もすかさず洋にパス、それと連動するかのように、目が右サイド、早田が左サイドを走り出した。


 洋はパスをもらう直前、多々良と野上の位置を確認した。まだオフェンスの状態にあった立志は意識が攻撃に向いていた。そのため、多々良も野上もカウンターに対する警戒が薄れていた。


 洋をセンターに目と早田の三線が敵リングへと向かって行く。


 さあ、洋よ、お前はどっちにパスを出す?ノーマークの今なら、ランニングシュートを打つことも可能だ!?


 一瞬、洋は波原を見た。


 波原が期待の笑顔を覗かせた。


 それを見た瞬間、洋はドリブルを加速させ、そのままランニングシュート……いや、洋は進路をリングの右側下に取り、更にスピードを上げ、エンドライン手前で踏み切ると、走り幅跳びをするかのようにジャンプ……


 そんな洋の行動に誰もが驚いた……


 と、その時だった。


 目がリング目掛けてジャンプ。


 伸ばした手の先にボールが飛んで来た……


「バーン」


 目はボールを両手で摑むと、そのままボールをリングに叩き込んだ。


 ボールがコートの上に落ち、転がって行った。



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作品のお知らせ


カクヨムでは『サブマリン』を連載中ですが、kindle、iBooksでは有料で作品(長編二作、中編一作、短編多数)を公開しています。ただ、有料と言いましても、それほど高いものではないので、是非手にして頂けたらと思います。

作品はこれから順次紹介したいと思っています。


本日の紹介作品

タイトル:おばあちゃんの制服

 400字詰め原稿用紙換算枚数 31枚(縦書き)

 所要読書時間30分~60分。


 前書き


 この小説は、短編小説を書いては出版社に送っていた時の作品のひとつです。

 時期は二〇〇四年三月です。

 書くきっかけとなったのは、新聞の投稿欄で見つけた『制服』に関するものです。

 投稿された女性は、学校に行くのが嫌だった朝も制服を着て頑張ろうと思ったことなど、制服にはとても思い入れがあると言うことを書かれていました。

 わたしはこのお話をモチーフに、戦争に青春を奪われたおばあちゃんのお話を、孫娘の視点から描きました。

 最後は不思議な感じで終わりますが、魂は確かに存在するとわたしは思っています。


 あらすじ


 真弓は東京で大学生活を送っていた。

 その日、最後の授業を終えた真弓は、友達と夕飯の話をしていた。

 すると、突然、携帯が鳴った。

 それは、おばあちゃんの訃報を知らせる母からの電話だった…

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