第二章 新しいユニフォーム 十 ワンポイントの意味

「その通りだ。一時期は王者から陥落(かんらく)、低迷時代に喘(あえ)いでいたが、今では見事復活、この三年間は完全無欠と言っていいだろう。


 練習試合の話を持ちかけられたとき、俺はしめたと思った。ここで、奴らと互角に戦えたら、インターハイ制覇も夢じゃない。いや、俺は互角に戦えると思っていた。第四クォーター、残り3分までは。俺達はそれまで対等の勝負をしていた。3点差で負けてはいたが、この日は早田の3ポイントが絶好調で、加賀美のリバウンドも冴えていた。だから、負ける気はしなかった。勝てると思っていた。しかし、あの3分が俺達を悪夢に叩き落とした。


「フルコートプレス」


 洋がさも当たり前のように言った。


「その通りだ。矢島はフルコートプレスの経験があるから分かるだろう。結果は、11点差をつけられての大敗だった。それからだ、チームの歯車が狂い始めたのは。優勝候補と言われていた俺達は、もうひとつの優勝候補である中越平安(ちゅうえつへいあん)に敗れた。しかも11点差というおまけ付きで。

 バスケットはやはり空中戦だ。制空権を握った方が勝つ。それは決して間違ってはいないが、ただ、もちろんそれだけで勝てる程勝負の世界は甘くはない。俺もそれは分かっているつもりだった……しかし、今思えば、それはやっぱり『つもり』だった。本当に分かってはいなかった。それをあの試合で思い知らされた。

 フルコートプレスの練習は対神代工業の練習ではあるが、俺達もこれを試合で使えるようになれば大きな武器になる。半年近く練習してきた今、それは花開いたと思っていた。しかし、それをあっさり破った奴がいる」

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