第三章 春季下越地区大会 二 夏帆の迷い

 夏帆の顔は見る見るうちに真っ赤に熟したトマトのようになった。


「……譬(たと)えよ、譬え。そんな事もあるんじゃないのって程度の話なんだから、気にすることじゃ……」


 黙れと言わんばかりに、真っ赤な顔が由美を睨(にら)みつけた。


 夏帆が黙って部屋を出て行ったのは、その直後であったが、由美にはこの短い時間が永久の時間になるのではないかと思えるほど、時間の経つのが長く感じられた。


 入部が決まり、少し有頂天になっていたのであろう。由美は気持ちの余裕が出来たせいもあって、ついイタズラ心が芽生えてしまった。しかし、感情を限界まで高ぶらせるほど矢島のことが好きだとはさすがに思っていなかった。明日顔を合わせたら謝ろう。由美はそう思ったが、あれほどまでに心を赤く染められることが、由美にはちょっぴり羨(うらや)ましくもあった。

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