第三章 春季下越地区大会 四 試合当日

 正昭も信子もバスケットの体験がない。あっても、それは体育の授業くらいでしかない。随分昔の話である。


 多少なりともルールが分かれば、バスケットへの理解も深まる。洋が夢中になるバスケットとは一体どんなものなのか。信子はバスケットを理解したいのではなく、洋の夢中になるバスケットを理解することで、より深く洋を理解出来るのではないかと考えているようだ。


「しかし、いいものだな」


「何がですか?」


「この雰囲気だよ。熱気があって、気合いが入る……」


「思い出しますか?」


「そうだな」


「あっ、あれ、洋さんじゃないかしら」


 見ると、移動式バスケットゴール台の後ろに山並バスケット部のメンバーの顔が見えた。


「我等が真打ちの登場だ」


「洋さん、よく身長のことを口にするけど、こうして見ると、みんな背が高いわねえ」


「それもそうだが、洋が一際低いって言うのもあるだろう」


「洋さん、出番あるかしら」


「本人は、運が良ければと言っていたが……」


 試合終了のブザーが鳴った。


 両チーム、センターラインまで来て「有り難うございました」と挨拶を交わすと、


「さあ、いよいよだな」


 と、山並メンバーの心情を代弁するかのように、正昭が言った。


 本日最後となる第四試合、果たして山並と村上商業はいかなる戦いを繰り広げるのであろうか。

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