第三章 春季下越地区大会 四 試合当日
「Aコートは、さて、どっちだ?」
「あなた、Aコートはあっちよ」
と、信子に言われると、二人はコート上で行われている試合の熱気を感じつつ、歩みを進めた。
「適当に座っていいのかしら」
「高校生の試合だぞ。予約なんてあるわけないだろ」
「でも、さっき選手席って書いてあるのを見かけたんだけど」
信子にそう言われたので、正昭が席の確認を始めると、
「選手の保護者ですか?」
と、座っている人が尋ねた。
「ああ、そうですけど」
「じゃあ、一般席と書かれてある席で大丈夫ですよ」
「あっ、そうですか。どうも有り難うございます」
正昭は礼を言うと、改めて良い席がないか探し始めた。
「あそこはどうかな?」
と言うと、正昭は再び歩き出し、そこが一般席であるのを確認すると、信子と並んで座った。二人が座った場所は最前列でAコートを横から見ることの出来る場所であった。コートの向こう側にはオフィシャルテーブルが見える。
「アップはもう済んだのかな?」
「はい?」
「試合前の体慣らしだよ。その辺を走っていると思って見たんだが、もう終わったようだな」
「あれが残り時間を現している時計なんでしょ。後三分ですから、きっと待機してるんですよ」
と言うと、信子はバッグから本を取り出した。それは市の図書館から借りたバスケットの解説書であった。
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