第二章 新しいユニフォーム 二 ハードな練習

 そうして締めの練習が始まる前に、息抜きを兼ねてのシュート練習をする。これも二人一組で行うので、洋は日下部とペアになったわけだが、初めて洋のシュートを見た時、日下部はおやっと思った。


「矢島、お前左利きなんだ」


「はい、そうです」


「でも、レイアップでは右側の時は右手でシュートしてたよな」


「それは中学の時、先生からそうするように言われたからです」


「そうなんだ。じゃあ、うちには三人左利きがいることになるんだ」


「あっ、そうなんですか」


「早田と山添……五人中三人が左利きとなると、相手チームは遣(や)り難(にく)いだろうな」


 それを聞いた時、洋は《えっ?》と思った。遣り難いかどうかは別として、レギュラーである日下部にさもレギュラーであるかのように扱われたことは、洋にとっては後味の悪い褒め言葉にしかならなかった。


 シュート練習をする間、洋は日下部の言動に注意を払った。が、特に変わった様子は見受けられなかった。


 日下部は厭味(いやみ)を言うような男ではない。それは洋も分かっているつもりだ。だから、先ほどの発言が気になって仕方が無かった。


 もし本音の部分が無意識のうちについ口を衝(つ)いたとなれば、日下部の本心とは、一体どのようなものなのであろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る