第二章 新しいユニフォーム 三 ベールを脱ぐ矢島

 シュート練習が終わると、いよいよ最後の練習が始まる。それがフル(オール)コートプレスの練習であった。


 山並バスケット部の基本ディフェンスはハーフコートマンツーマンである。フルコートプレスはその延長線上にあるディフェンス術と言えるので導入はし易い。しかし、その動きは非常にハードであり、スタミナの消耗が激しい。故に、これを用いる時は負けているか引き分けているか、そのどちらかと言っていい。まさに、肉を切らせて骨を断つ戦術である。


 藤本は今後の練習方針を立てるためにも、目同様、洋にもフルコートプレスの練習を始める前に質問をした。


「矢島、お前フルコートプレスの経験はあるか」


「あるどころか、毎日練習してました」


「そうか……フォーメーションは?」


「1―2―1―1です」


 藤本が嬉しそうに笑うと、上級生が何とも嫌そうな顔をした。


 後で聞いた話によると、目はフルコートプレスの経験はなかったそうだ。


 経験があるとなれば当然期待も生まれる。インターハイまでに、藤本の理想とするフルコートプレスを完成させることが出来るかもしれない。


 これが終われば、今日の練習が終わる。各々そんな思いを抱いている中、ただ、日下部だけは《ついに来たか》という思いで洋を見ていた。

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