第三章 春季下越地区大会 十四 決勝
第一試合、女子準決勝の試合が終わった。
コートから女子選手がいなくなると、山並、松上藤ヶ丘双方のメンバーがコートへ入り、アップを始めた。
事前の打ち合わせで、松上藤ヶ丘が濃色のユニフォーム、山並が淡色のユニフォームになった。本来なら、Cブロックである松上藤ヶ丘の方がトーナメント表に振られている番号が若いので淡色になるはずであるが、松上藤ヶ丘の申し入れで逆になった。験担(げんかつ)ぎでもあるのだろうか。
ブザーが鳴った。
選手達はそれぞれのベンチに戻った。
山並の先発は昨日と同じ。
対する松上藤ヶ丘も、何かしらのトラブルが無い限り、おそらくはベストメンバーであろう。
ユニフォームは松上藤ヶ丘が濃紺、山並が白。
準決勝はこれまで使っていたAコートではなくBコート。
お互い指導者の指示を受けてコートに向かうと、センターラインを挟んで整列した。お互い挨拶を交わすと、加賀美がセンターサークルに向かった。相手選手は加賀美と比べると少し低いように見えた。
サークルに沿うように他の選手がポジション取りをした。洋はその時、チラッとAコートを見た。
向こうでは既に試合が始まっている。
と、その時、洋はハッとした。
野上がスリーポイントを決めたのだ。
《さっきすれ違ったとき、あいつは俺に気がつかなかった。でも、俺はあいつに気がついた。あの頃は同じ坊主で、今はお互い髪を伸ばして、見た目が変わったのは同じだ。それでも、俺は気がついて、あいつは気がつかなかった。それが俺と奴との差だ》
洋の心に一瞬劣等感が走った。
しかし、加賀美が叩き落としたボールを手にしたとき、それは消えた。いや、劣等感が闘志へと変わった。
《今度こそ勝つ》
洋はコートを駆け抜ける風となった。
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作品のお知らせ
カクヨムでは『サブマリン』を連載中ですが、kindle、iBooksでは有料で作品(長編二作、中編一作、短編多数)を公開しています。ただ、有料と言いましても、それほど高いものではないので、是非手にして頂けたらと思います。
作品はこれから順次紹介したいと思っています。
本日の紹介作品
タイトル:廃墟の戯れ
400字詰め原稿用紙換算枚数 90枚(縦書き)
所要読書時間60~90分。
概要
「廃墟の戯れ」は、アメリカ映画「スタンド・バイ・ミー」を思わせる少年たちの青春への通過儀礼の物語が、とてつもない惨劇へと反転する過程をたどっている。
語り手の「僕」を含む小学校六年生の五人組は、臨海副都心の廃墟となったビルに忍び込み、真夜中の冒険を楽しむ。
ある夜、リーダー格の少年が、未完成の高層ビルに残された足場を渡ろうとして転落。助けを呼ぼうとするが、子分のような存在だった気弱な少年は「ここは僕達だけの場所なんだ」と他人を入れることを拒絶した…
1998年(平成10年)10月14日(水)
読売新聞 夕刊
同人誌より抜粋
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