第三章 春季下越地区大会 三 大会前夜

 腹筋を終えて居間に来ると、大きなお皿にたくさんのフライが盛られていた。


「おばさん、いくらなんでもこんなには食べられないですよ」


「バカね。洋さんの分だけじゃないわよ」


「あっ、そうですよね」


「そうよ」


 と言うと、信子は笑った。


 洋も釣られて笑った。


「おじさんは?仕事ですか?」


「そう」


「おじさんも大変ですね」


「今年は大きな病院のクリーニング委託業務を入札で落とせて……それで、設備投資をどうしようかって考えてるらしいの」


「へえ」


「上司ともなると、先のことも考えないといけないから、大変よね。でも、洋さんが来てからは張り合いが出来たみたいだから……」


 洋は返事に窮した。しかし、それは悪い気持ちではなかった。


「それより、早く食べないと冷めちゃうわよ」


「あっ、はい」


 洋と信子は晩ご飯を食べ始めた。


「どう、美味しい?」


「はい、美味しいです」


「よかったら、これも食べてみて」


「これは?」


「食べたら分かるわよ。あっ、でも、ソースは掛けないで、そのまま食べてみて」


 それは大皿とは別の小皿に載せられている、見たところ大皿のフライとは全く変わらないように見えるが、信子は楽しそうに笑っている。一体何が違うのだろう?ひょっとして、ドッキリでもあるのだろうか?


 洋は何かハプニングが起きるのではないかと思いつつ、それを一口食べた。

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