第三章 春季下越地区大会 四 試合当日

「それからさ……」


「まだ何かあるの?」


「明日、清水に渡して欲しいものがあるんだ」


 と言うと、洋は学生服のポケットから封筒を取り出した。


「何、これ?」


「中身はメモ書きなんだ」


「自分で渡せばいいじゃない」


「……いや、直接は……」


「今日じゃ駄目なの?」


「うん、明日の方がいい」


「まあ、別にいいけど……」


「ごめんな」


「何で謝るの?」


「……なんとなく……」


「変なの」


 納得しかねる。由美の返事には明らかにそんな意味合いが含まれていた。


 洋の態度を見れば、由美で無くても誰もが同じことを思うであろう。人によっては執拗に問いただすかもしれない。しかし、洋はやはりそれ以上話すつもりはないようであった。


 マイクロバスは既に来ていた。


 メンバーも、菅谷と鷹取以外は全員来ていた。


 後三時間も経てば、試合が始まる。


 勝ち上がってくる今日の対戦相手はおそらく村上商業。はっきり言って強豪ではない。藤本は一体誰を先発メンバーにするのか。


 目に見えぬ指導者の闘いは孤独のうちに始まっている。

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