第三章 春季下越地区大会 四 試合当日
高速道路を走っていたマイクロバスはインターチェンジを降りて、その後(あと)は目的地の体育館まで下道を走った。到着したのは、十三時過ぎであった。
バスから降りた洋は体育館の外観を見て、
「すごいなあ」
と、思わず呟いた。
「俺もこの体育館で試合をするのは初めてだ」
「えっ、日下部さんが?」
「完成したのは去年の十一月だ。こけら落としはBリーグの公式戦が行われたんだが、その前にエキシビションとして立志と神代の試合が行われたんだよ」
「えっ、そうなんですか……それ、見に行ったんですか」
「行ったよ」
「どっちが勝ったんですか」
「聞くまでもないだろ」
「そうですよね」
「いずれ、その時のビデオを見ることになるだろうが、今は目の前の試合に集中しろ」
「あっ、はい」
神代と立志のビデオがある。思わぬ日下部の言葉を聞いて、洋は驚きと共に密かな興奮を覚えた。
だが、立志との闘いを控えているのに、なぜそれを藤本は見せないのだろうか?二年三年は対戦経験があっても、一年は何も知らない。いつもの藤本なら、万全を期すために対戦相手の情報を知らせるはずだ。
また気になるのが、日下部の言葉だ。いずれは見せると言うことは、違う言い方をすれば、見せるタイミングを見計らっていると言うことだ。
立志と神代の戦い。一体そこには何が映っていると言うのであろうか。
洋は気になりつつも、しかし日下部を見ていると、尋ねてはいけない何かを日下部から感じずにはいられなかった。
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