第一章 高校バスケット部、入部 三 キーマン
「あっ、私達もここに行くの」
洋は思わず夏帆を見た。
夏帆はさりげなく洋を見た。
「良かったら一緒に行かない?」
夏帆の言葉に、洋の思考が吹っ飛んだ。
「それ、いいな」
鷹取が返事をした。
夏帆の問いかけから鷹取の返事までの時間は一秒にも満たなかったはずだ。しかし、洋の脳裏(のうり)にはおびただしい光の雨が降り注ぎ、一瞬にして洋の全てを真っ白にした。洋を襲ったのは、確かに一目惚れの揺り返しだった。
「ねえ、夏帆」
「んっ、何?」
「誰?」
「あっ、ごめんね。二人とも同じクラスの友達で、こっちが鷹取君、こっちが矢島君。で、彼女は同じ寮生の羽田由美ちゃん。クラスは七組だったよね」
「七組って言えば、目ってやつがいるだろ」
「うん、いるけど。なんで知ってるの?」
「同じバスケット部だから」
「鷹取、バスケするんだ」
「するんだって言っても、まだボールに触ったことすらないけどな」
「えっ、じゃあ矢島も初めてなの?」
「初心者は俺だけ。こいつも目も経験者だよ」
「経験者と言っても俺は大したことない。でも、目は違う。あれは超高校クラスだ。俺とは次元が違う」
「羽田さんは水家と同じチアリーダー部なの?」
「ううん、私は……中学の時からずっと合唱部」
「私達、まだ新潟市内に行ったことがないから、それで誘ったの。ねっ、由美」
「うん、私も行ってみたいお店があったから」
「羽田さんの行ってみたいお店って?」
「さん付けはやめてよ。同い年なんだから」
「ああ、ご免。初対面だから、つい」
「でも、鷹取って、私の時はそんなに礼儀正しくなかったと思うけど」
「気のせいだよ」
「ほら、その素っ気ない態度。鷹取は由美がタイプなの?」
「いや……それより、行ってみたいお店って」
「あっ、誤魔化した」
「水家は矢島と話してれば。で、お店って?」
そう言われて、夏帆の心が一瞬たじろいだ。
「新潟にはイタリアンって料理があるの。知ってる?」
「知ってるよ。じゃあ、みかづきに行くんだ」
「そう。私、食べるのが好きだから、すごく楽しみにしてたの」
「じゃあ、後で案内するよ」
「ほんと?」
「もちろん、私も行っていいんだよね」
「どうぞ、ご自由に」
「今度は厭味だ。鷹取って見かけによらず、意地が悪いよね。ねっ、由美」
「そうかもね」
と言うと、由美は笑った。
夏帆も由美と目を合わせると笑った。
その後は、なぜか意味も無く二人して笑い会った。
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