第二章 新しいユニフォーム 七 ハーフタイム

「それは目のことか?」


「そうです。三年生相手に引けを取らないどころか、むしろ圧倒してましたからね。同じ高一とは思えないですよ」


「矢島はどうだ?」


「あいつは……」


「矢島なら、勝てそうな気がするか?」


「あいつは……何だろう、別の世界にいるような、うーん、ちょっと分からないです」


 この練習試合の感想を聞くことで、藤本はどうも清水と立花の特性を探ろうとしているようである。いかにチームを強くするか。それは確かに指導者の課題である。


「先生、さっきの続きなんですけど、矢島のスティールって、凄いんですか?」


「ああっ、凄い。この時点で6つも記録してるなんて、ちょっと考えられん」


「Bリーグで一試合における個人の平均スティールが確か2・4くらいだったかな?それも一位、二位を争っているプレーヤーの数字だから。NBAでも平均3くらいだったと思う」


 と、清水が具体的に説明した。


 それを聞いた鷹取は、驚きの余り次の言葉が浮かばなかった。


 立花は途中から話に参加したので、何のことか意味がよく分からなかった。


「ハーフタイムが終わるまで、まだ時間がある。体が冷えないようにしておけよ。俺はお茶を買ってくる」


 と言うと、藤本は自販機に行こうとした。


「あっ、先生」


「何だ?また聞きたいことがあるのか?」


「俺は?何か聞いてくれないんですか?」


「……ああ、鷹取はセンターかパワーフォワードだ。これはもう決定だから、そのつもりで鍛えていく。覚悟してろ」


「あっ、はい」


 そして、藤本は再び歩き始めた。


 清水、立花、鷹取。三者三様、彼等はそれぞれの思いを胸に抱きつつ、段々と小さくなる藤本の背中を見つめていた。

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