第四章 インターハイ予選 二十九 準決勝 中越平安VS立志北翔 第一クォーター ―引っ掛かる―
一方、この試合のもう一人のキーマンであり、ボックスワンという戦術の
杵鞭も、その性格を考えれば、望むところだと言う気持ちは絶対にあったはずだ。だから立ち上がりこそ『俺に回せ』と言って1ON1を
漆間が左45度の位置に
トップに杵鞭が就いた。
漆間が杵鞭にボールを戻した。
杵鞭は戸沢にボールを回した。
戸沢は間髪入れず淳にパスをした。
頭上でボールを受け取った淳は、そのままの姿勢で振り向いた。
蓮、カットイン。
淳がパス。
頭上に伸ばした蓮の両手にボールが収まった。
一番近くにいた島崎がマーク。
しかし、蓮が保持しているボールの位置は島崎の伸ばした両手の
島崎はジャンプせず、両手を上げるだけのディフェンス。
ザッ。
蓮のスナップを利かせたシュートがネットを揺らした。
島崎の身長は190センチ。高校バスケットにおいては間違いなく背の高い部類に入る。不断ならブロックショットで対抗していたはすだ。
しかし、相手は超大型巨人。まさに、為す術無しと言った感じであった。
「ナイッ、シュート」
リードした時の声援は一際大きく聞こえる。中越の保護者席のあちらこちらからも拍手が沸き起こった。
対して、立志は中越の大応援に煽(あお)られることなくスローペースを維持、中越と比較して福田のボール運びは本当に遅い。
立志の各メンバーがそれぞれのポジションに就いた。
トップの福田は左45度にいる多々良にパスを出した。
右0度にいる島崎がペイントエリアに入った。
しかし、タイミングが悪く、多々良は島崎にパスを出しそびれた。
と、今度はここで、野上が右0度に下がった。
多々良は野上にバウンドパス。
すると、今度は松山がカットイン。
野上、松山にパス。
松山、振り向いてシュート。
しかし、淳の右手が考えていた以上にぐんと伸びてきた。
審判はホイッスルを吹くと、右手を立志の攻撃方向へ示した。
野上がエンドラインの外に出た。
審判がワンバウンドさせてボールを野上に渡した。
福田は、左サイドはエンドラインの近くにポジションを取った。
しかし、福田には杵鞭がマーク。
多々良がトップに上がった。
野上は多々良にスローイン。
多々良はボールを受け取ると、戸沢のディフェンスを意識しつつ、一旦態勢を整え直そうとそれぞれが各ポジションに就くのを待った。
福田が駆け寄った。
多々良、福田にパス。
福田はドリブルしながら、杵鞭のディフェンスを警戒しつつトップに向かうと、野上にパスを出した。
それを見た多々良は、ハイポストへ移動。
野上、多々良にパス。
多々良、すかさずジャンプシュート。
ボールは……
リングの付け根に当たった。
それを見た瞬間、立志のメンバーは福田を除いて間髪入れず自陣に戻った。
淳がリバウンドを取った。
十川が試合を見ている。試合開始当初の余裕がその表情からは今消えている。
淳が杵鞭を見た。しかし、そこには福田がもうへばり付いている。
「淳」
漆間の声が聞こえた。
淳は漆間にパスを出した。
杵鞭は漆間が移動し始めたのを確認すると、自身は立志の陣形を見ながらフロントコートへ向かった。
漆間がドリブルインの体勢を見せている影響からか、野上と松山は若干スリーポイントライン寄りにポジションを取っている。
漆間と蓮の目が合った。
漆間、オーバーヘッドパス。
しかし、ここは読んでいたのか、多々良がパスカット。
宙に浮いたボールを野上がリバウンド。
速攻が来る!
日頃の練習の成果は中越メンバーを瞬時に自陣へと戻させた。
だが……
野上は福田にパスを出すと、他のメンバー同様ゆっくりフロントコートへと向かい始めた。
《んっ?》
十川の脳裏に何かが引っ掛かった。
しかし、試合は待ったなしに進んでいる。
福田が多々良にパスを出した。
多々良、間髪入れず松山にパス。
松山、ボールを持ったと同時にエンドライン沿いにドリブルイン。
あっと言う間に淳が抜かれた。
松山、リング下を抜けた。バックシュートをするのか?
蓮が慌ててカバーに入った。
だが、松山は落ち着いて島崎にパス。
島崎、フリーでシュート。
ネットがザッと音を立てて揺れた。
「立志!北翔!、立志!北翔!」
メガホン軍団が連呼する。
保護者席からは大きな拍手が起こった。
だが、当の選手達は有頂天にならない。
福田はシュートが決まったと同時に杵鞭のマークに就き、残りの四人は足早に自陣へと戻った。
漆間がドリブルしながらフロントコートへ向かっている。
杵鞭は福田と漆間を交互に見ながら次の一手を探っている。
漆間が左45度の位置からドリブルインを仕掛ける素振りを見せた。
野上が素早く反応した。
漆間、杵鞭にボールを戻す。
すると、今度は杵鞭がドリブルで仕掛ける素振りを見せた。
福田が両腕を広げて迎撃態勢。
杵鞭が淳を見た。
淳が杵鞭の意図を探る。
杵鞭がクッと
と、その瞬間、フリースローサークル内にいた淳がリングに向かって動いた。
杵鞭、両手のスナップだけを利かせてリングに向けてチェストパス。
野上が、多々良が、島崎が、松山がアッと驚きの表情を見せた。
ボールが淳の両手に収まった。
バーン。
ボールが勢いよくコートに落ちた。
ほんの少しの間、その姿を見せつけるかのように淳はリングにぶら下がった。
中越・立志両サイドからどよめきが沸き起こった。
淳の足がコートに着地した。
野上は既にボールを拾ってエンドラインの外に出ようとしていた。
その一方で、多々良、島崎、松山は早くもフロントコートへと向かい始めていた。
チッ。
島崎が思わず舌打ちをした。
「島崎」
島崎は多々良を見た。
「まだ始まったばかりだ」
と言うと、多々良は笑って見せた。
島崎は悔しい表情を
「ああっ」
と言ったときには、既にそれは消えていた。
福田がドリブルをしながらゆっくりフロントコートへと近づいて行く。
野上が右45度の位置に就いた。
センターラインの少し向こう側で、杵鞭がポーカーフェイスで待ち構えている。
野上が右45度からトップへ移動した。
それを見た福田はセンターライン手前からダッシュ、右45度へ向かった。
対する杵鞭も猛ダッシュ、すぐに追いつくと完全にドリブルコースを
が……
相手が杵鞭となれば、福田もこのままでは引き下がれない。
正面突破で、杵鞭と強く接触。
しかし……
杵鞭は胸で受けて
福田、もう一度……
しかし、やはり杵鞭は胸で受けて弾き返す。しかも、決してバランスは崩さない。
審判も単なるボディチェックではホイッスルは吹かない。
野上が福田に寄った。
福田は仕方無く野上にボールを渡した。
野上、パスコースを
左45度にいる多々良がペイントエリアに入った。
野上、一瞬多々良にパスを出すことを考えたが、戸沢のマークが厳しいと判断、ドリブルで左45度に移動。
と、ここで、松山の足が野上のいる方に向かって動いた。
野上、更にドリブル。
漆間も追走。
が、松山のスクリーンに引っ掛かった。
フリーになった野上の足がコートから離れた。
右手からボールが放たれた。
ザッ。
「ナイッ、シュート」
電光表示器が10から12に変わった。これで12対12。再び同点。
時間経過はここまで5分41秒。
準々決勝まで、この時間が経過していた頃には、お互い既に一方的な試合展開を繰り広げていた。しかし、さすがは優勝候補同士、一歩も譲らない戦いである。しかも、得点すべき者が確実に得点している。
塚原は相変わらずの仁王立ち。しかし、ここまで指示は一言も発していない。
それは十川も同じである。
ただ……
ボックスワンの陣を敷いている立志は徹底して杵鞭に福田を打(ぶ)つけている。
ボール運びを杵鞭一人に任せていると、幾らタフな杵鞭でもこれではフルタイムは持たないと思われる。仕方無く今は漆間にボール運びを任せているが、これは試合の流れに沿った結果であり、杵鞭と漆間の間で交わされた暗黙の了解と言えるであろう。
この先を考えれば、中越にとってこれは不利な展開になると思われるが、十川はそのことを考えているのであろうか。
漆間がドリブルしながらセンターラインを越えた……
すると、いきなりダッシュ、左手でドリブルインに向かった。
野上がドリブルコースに入った。
漆間、強引に入り込み、シュートを打つ体勢。
野上が両手を上げてディフェンス。
漆間、ここで戸沢にパス。
戸沢、間髪入れずジャンプシュート。
ザッ。
「中越、中越、中越、中越……」
綺麗に決まったシュートは一気に引き離すぞと言わんばかりにメガホン軍団の士気を
島崎がボールを拾ってエンドラインの外に出た。
福田がスローインを受け取った。
中越のメンバーは自陣に戻り陣形を整えつつある。
仁王立ちしている、塚原。
表情が
ベンチで応援している両チームの選手達。
保護者も観客席にいる一般客も
ここまでファウルは一つもない。切れのある試合展開が目に見えない緊張感をピーンと張り詰めさせている。
福田がセンターラインを越えた。
杵鞭の表情がポーカーフェイスから目つきの鋭いそれに変わっている。
福田、そのまま右サイドへドリブルしながらダッシュ、野上を通り越した。
島崎がペイントエリアはミドルポストに入った。
福田、ドリブルを
島崎、ボールを両手でキャッチ。
振り向きざまにシュートを打つのか?
しかし、相手は超大型巨人。
両手を上げてディフェンスをする蓮が壁となって立ち
と、ここで、松山がハイポストに行くと見せ掛けて蓮の背後に回った。
追いかける、淳。
しかし、味方であるはずの蓮がまさかの障壁となって淳を妨(さまた)げてしまった。
松山がフリーになった。
島崎、すかさずパス。
松山、シュート。
ザッ。
「立志!北翔!、立志!北翔!」
遣られたら遣り返すと言わんばかりに、今度は立志の控え選手達がメガホンを使って大声援を送った。
立志のメンバーが自陣へと戻って行く。
島崎と松山が戻りながら顔を見合わせた。 島崎がフッと笑った。
松山はそれを見ると、得心する何かがあるかのように小さく
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新年明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト(エンタメ総合)に応募しています。
応援頂けたらと思っていますので、よろしくお願い致します。
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