第三章 春季下越地区大会 二 夏帆の迷い

 由美はぼうっと天井を見つめながら、今一度あの練習試合を振り返り、気持ちを整えようとした。そうだ、この気持ちはバレーをやりたいと思った時と似ている。でも、あのときは憧れだけが先走りして、私の実力が追いつかなかった。三年間頑張って残ったのは、惨(みじ)めな思いだけだった。私はまた同じ道を歩もうとしているのだろうか?


 由美は考えた。考えて考え抜いて、目の前が真っ暗になりそうになったとき、ハッと気がついた。私にも出来ることがある。


 それからは入部に対する自分の強い思いをどうすれば藤本にきちんと伝えられるか、そればかりを考えた。思いついたことはすぐにメモした。メモが溜まったら、それをひとつの文章にまとめた。文章は声に出して何度も読み直した。とにかく、事前に出来ることはやるだけやった。それでも、藤本を目の前にしたときは、何もかもが吹っ飛び、頭の中が真っ白になった。


 自分の情熱に一途になれる。青春時代にそれを体験出来るのは本当に素晴らしいことだ。


 だが、人気のない駐車場で待ち伏せしていた一人の女子生徒に、乗り入れた車から降りて来たところを、いきなり襲撃するかのように、


「この手紙を読んで下さい」


 と言われれば、驚くのは何も藤本に限ってのことではないだろう。


 由美が何かを訴えたいがために自分の所に来たのは状況からして何となくは分かっても、どう対応すればいいのかは判断がつかなかった。言い換えれば、藤本は男としての勘違いをしていた。

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