第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い
「おじさん、おばさん、お世話になります」
と言うと、洋は畳に手を突いて頭を下げた。
「もういいよ、そんな事は。さあ、顔を上げて」
正昭がそう言って、洋は顔を上げた。
「善は急げだ。入部届は明日にでも出して来なさい」
「はい」
「それから、これはお願いになるんだが……」
「何でしょうか?」
「もし許してくれるなら、試合を見に行ってもいいだろうか?」
「別に構いませんけど……でも、僕が試合に出てるとは限りません。点差が開いている試合になら、出してもらえるかもしれませんが……」
「現実は厳しいものだ。でも、悔いを残しちゃいけない。好きなバスケットをとことんやって、だから、壁にぶつかることが出来るんだ。たとえ、それを乗り越えられなくても、悔いはないと思う」
「……そうですね。その通りだと思います」
「じゃあ、洋」
「あっ、はい」
「頑張れよ」
雨降って地固まる。養子縁組という関係の中、まだまだお互いによそよそしい痼(しこ)りが多分に残っていたが、これで少しは解消されるかもしれない。
洋は自室に戻った。広げたままの参考書を閉じると、大きめの紙袋に入れていたバスケットボールを取り出し、それをじっと見つめた。
「……よろしくな」
そう言うと、洋はそこがコートであるかのように、天井に向けて柔らかいパスを解き放った。
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