其ノ二十三 二藍

「ほうれ、さと姫。お母様のお気に入りの二藍ふたあいの帯を、こんなに引きってしまって」


 さと姫と呼ばれた三毛猫を追って、一人の美しい姫君が、鼈甲べっこうかんざしを刺した根結ねゆ垂髪すいはつから下がる長いかもじを揺らしながら、奥方様が灸を据えて居られる、この化粧の間に入っていらっしゃいました。


 この姫はあでやかな朱色しゅいろの絹地の打掛をしどけなく羽織り、お顔は大層若々しくてたおやかで、それでいて立ち居振る舞いは、上流の姫君らしく大変優美なお方でいらっしゃいました。


 猫が引き摺って来たその奥方様の二藍ふたあいの帯は、濃紺のうこんから縹色はなだいろ、そこから紅花べにばなの赤を染め重ねて紫がかって行く階調かいちょうが素晴らしく、そこに有明ありあけの月を染め抜いて有る見事な友禅帯ゆうぜんおびで御座いました。



明日に続く

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