其ノ八 亥の日

「んおほん、お優、私は今晩は小松菜のおみ御付おつけが良い。」


 先生は、私が大きな声で驚いて居たのがお聞こえになったのか、咳払せきばらいをしながら玄関からちらりと顔をお出しになり、さりげなさを装って私たちの話に加わり、健吉を、普段診察室として使っているみせの方に手招きしました。


「ほお、あのおまさと言う機織はたおり娘と祝言しゅうげんとな。」


 おまさが中室なかむろ妓楼ぎろうに売られて居ると言う話はご存知でしたので、先生は驚きを隠せないご様子でしたが、やはり祝言しゅうげんはお目出度めでたい事、私は先生と健吉にお茶を出しながら、健吉の話に耳を傾けたのでした。


「はい。十月の最初のの日、山野村やまのむらにて祝言しゅうげんげようと思って居ります。」

 健吉は頬を紅潮させ、喜びを隠しきれない表情で、先生と私にこう言ったのでした。



明日に続く

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