其ノ九 玄猪

「そうか、の月、の日。昔から玄猪げんちょとも言って、いのしし子沢山こだくさんにあやかろうと、子餅こもちを食べる習慣の有る目出度めでたい日だね。古くは平安の世、源氏物語の紫の上も、結婚の祝いに子餅こもちを食べたとも言う。

 ああ、その時期の山野村やまのむらは、さぞや櫛見川くしみがわ沿いの紅葉もみじが美しいことだろうよ」


 先生は紅葉こうよう真っ盛りの美しい山里で行われる、若い二人の目出度めでた祝言しゅうげんの日を想像して、少しうっとりされて居るご様子でした。


「そこでなんですが先生、お優さん。是非私どもの祝言しゅうげんに、ご列席頂く事は叶いませんでしょうか? 

 私のおばばも大変楽しみにして居りまして、その昔、自分で織って私の母に着せてやった打掛うちかけを、いまだ大事大事に取っておいでで、それをおまさに着せて皆さんにお見せする日を、今か今かと心待ちにして居るのですよ」



来週に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る