其ノ二十三 接吻

「私が、梅毒ばいどく?」


 おまさは真っ白になった脳裏に、かつて遊里中室いろざとなかむろ小路こうじ格子こうし越しに見た、隣の置屋おきやに居たある女の姿を思い浮かべました。


 あの女は確か、古く汚い土牢どろうの様な部屋に閉じ込められ、体は痩せ細り、鼻がげて目と繋がっているかと思うほど醜くただれ、昼間も一歩も部屋から外に出る事を許されず、ただりょうの様に鬱々と日を暮らしていた……。成香屋なりきょうや姐様方ねえさまがたは、あの女は男に梅毒をうつされたんだ、可哀想にと噂をして居たものだった。


 ただ……、梅毒は男と交渉したことの無い生娘きむすめにはうつることの無いやまいだとも聞いた事が有る。だから私にはうつる筈が……。


「あっ!」


 その時おまさは、あるおぞましい不吉な出来事を思い出したのでした。


「あの日の……、九平次との接吻せっぷん……!」



来週に続く

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