其ノ二十五 妓楼

 健吉の余りに辛そうな表情をご覧になり、先生は無理をして話を続けさせる事はせず、ただ黙ってごりごりと薬研やげんで薬を磨り潰して居られました。


「実は、去年の暮れ……。おまさちゃんは妓楼ぎろうに売られたんだ」


 長い沈黙の後、健吉が意を決した様にようやっとこう口を開くと、私は驚いて、持って居た薬匙やくしを落としそうになりました。


妓楼ぎろう……、そんな、酷い」


 私は思わず声に出してこう言うと、健吉は辛そうに、

「ご存知の通り、去年は米が不作で酷い飢饉だった。おまさちゃんの家は主に米をやって居る小作で、元より貧しい上、小さい妹弟きょうだいも多いから、だからおまさちゃんは……」


来週に続く

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