其ノ七 名折れ

「まあとにかく、おりくはんの事は、あんさんがええ様に考えて上げたらよろし。


 そもそもあんさんがいたたねなんえ? 孫やめかけのことうちらに尻拭しりぬぐいして貰えるだけでも、有り難いおもて欲しいわ。


 そやけど、お六はんはなあ……。うちもお父さんも何度も先方に足を運んで、是非にとこちらから頭を下げて、大仰おおぎょう花嫁支度はなよめじたくでうちにお迎えしたお方や。

 こんな事があったかて、おいそれと長谷部はせべの家に帰す訳にも行かへんわなあ。そんなんしたら四ツ井よつい名折なおれやわ。


 かと言って、本妻なんやから娘は本家のもんや言うてあの嫁に育てさせる言うても、お六はんがあないおかしな具合では、妾の産んだこおに何をするか分かったもんやおへん」


「……」


 高蔭たかかげは母の言葉に、一言も返す事が出来ませんでした。


「そうや、そうや。

 うちはまだ、その孫の名を聞いとりませんでした。教えておくれやす」

 良子よしこは、目を輝かせ身を乗り出して、こう高蔭に尋ねました。



明日に続く

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