其ノ八 玉鬘

「名は、おたまと付けました。玉櫛たまぐしの、玉」


 高蔭たかかげは、良子よしこにこう答えました。


「はああ、お玉か。ええなあやなあ。源氏物語に出て来る玉鬘たまかずらさんみたいに、かしこう、うつくしゅう育って貰いたいなあ……。

 会うのが楽しみやわ。あんさんに似て、かいらしいこおなんやろうなあ」

 良子は興奮気味にこう言うと、


「ええ、お夏にも似て、本当に可愛らしい娘です」

 と高蔭は答えました。


「ああ、こうなったら一日でも早う引き取りたなったわ。

 これから忙しなるなあ。子供用の布団も新調せなな。ああそうや、まりやでんでん太鼓だいこも要るなあ。数え二つやったら、もうお雛遊ひなあそびも出来るやろか。

 早速お父さんにお金も人も用意してもらわな。ああ、忙しなるわあ」


 良子の頭の中は、もう孫の事だけで一杯になって居る様で、


「あ、そうや。うちとお父さんは孫の事で忙しなりますんで、高蔭はん、おりくはんの事はお任せしましたえ。ほなな」


 とついでの様に言い捨てると、良子は高蔭一人をその場に残し、お玉、お玉と歌うようにつぶやきながら、小走りに自室を出て行ったのでした。



明日に続く

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