其ノ二十 町人

「姫様、お御足みあしにお怪我をされて居るでは無いですか」


 小姓こしょう弥之助やのすけがこう言うと、

「ええ。でももう大丈夫です。あの方が手当てをして下すったので」

 と他の患者を治療中の春庭様の方に御目おめりながら姫君がお答えすると、この城下の事情に通じて居る、もう一人の小姓の佐吉さきちがこう言いました。


「たしか、あの者は恐らく魚町うおまちの医者で、学業すこぶる優秀の為に学問所に出入りしては居るものの、本来、殿町とのまち魚町うおまちさえぎ背割配水せわりはいすいより先の城や武家屋敷に、許し無く足を踏み入れる事の出来ない町人身分の者で御座います。


 この城下では四ツ井よつい丹後屋たんごやなど、大金持ちの町人らが幅を利かせては居るが、所詮は町人。あの医者とて、姫様が関わり合いになる様な身分の者では御座いませぬ」



明日に続く

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