其ノ九 女医

 時を、数ヶ月前にお戻し致しましょう。


 この正月より、私お優は木居宣長もくおりのりなが先生の命で、町の中央にそびえるお城の丸御殿まるごてんに、針灸医しんきゅういとして、木居家もくおりけより通いでお勤めさせて頂く事になりました。


 この町は天下の御三家ごさんけの飛び地で、普段は藩主様はんしゅさまから城を預けられて、城代じょうだい様がこの地を治めていらっしゃいますが、なんでも昨年の暮れに、藩主様の奥方様おくがたさまのお一人が、神経痛の治療の湯治とうじのため、六人居る姫君のうち未婚の方々を連れ、この城の二の丸御殿に長逗留ながとうりゅうする事になったとかで、城代様じょうだいさま御家中ごかちゅうは、そのご準備で上を下への大騒ぎで有ったと、あとから人に伺いました。


 そんな中、奥向きに誰か通いで治療が出来る女の医者が居ないものかと、木居宣長先生の所にお話が有り、この城下には私の他に女医も居りませんので、未熟ながら先生の御簾みすしのご指示の下、実際の施術せじゅつ女子おなごの私が行うと言う事で、この大切なお役目、私に白羽しらはが立ったと言う事だそうでございます。




明日に続く

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