其ノ十 御腹様

「あのう、御三家ごさんけ藩主様はんしゅさま奥方様おくがたさまともなれば、そのお身内も将軍家をはじめ、名だたる諸大名方しょだいみょうがた御縁付ごえんづかれると聞く、やんごとなきお方にございます。

 私ごときが本当に、そのようなお方のお体に、手をお触れして宜しいので御座いましょうか?」


 城門をくぐり、角の切り立った算木積さんぎづみの石垣に挟まれた丸御殿まるごてんへと続く坂道を、先生と共にを進めながら、私はこんな弱音を漏らしてしまいました。


「ははは。まあ、かしこまるのも無理は無い。だが先方が女の医者が良いと仰られるのだから、致し方あるまい。御簾みすしに私が指示を出すから心配するな。


 ちなみに、奥方様に御目見得おめみえする前に教えておくが、此度こたびお仕えするお志麻しま方様かたさまは、藩主様の江戸においでになる正妻の御簾中様ごれんじゅうの次に御権勢ごけんせいをお持ちになるお方で、元は殿の侍女じじょでいらっしゃったがお手付きとなり、今は六人の姫君の他、末に男児もお一人お産みになった御腹様おはらさまで、まあ、国元くにもとに居る御側室ごそくしつの中では、第一のお方と言っても良かろう」

 と、先生は仰いました。



来週に続く

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