其ノ十一 石垣

 人の背丈の三倍は有りそうな険しい石垣に挟まれ、歩行者の目線からはどこまでも野面積のづらづみの壁面しか見えない、細く急な坂道を道なりに廻りながら進み、息を切らして石段を登りつめた先に、城下を全て見渡せる見晴らしの良い台地が開けて参りました。そのならされた一角の土地の上に、藩主様がこの地を訪れた時に御滞在される為に建てられた陣屋じんや、通称丸御殿まるごてんが御座いました。


「ところで、春庭様のお通いになって居る学問所がくもんじょも、この辺りと伺っておりましたけれども……。」


 歩きながら、私が先生にこう申し上げますと、先生は開けた台地を囲う足元の石垣の斜め下を指さされ、

「そうさのう、ここからもよく見えておる。あれが学問所じゃ。おお、やっとるやっとる。」

 と愉快そうに仰いました。



明日に続く

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