其ノ八 浴衣

 少し頬を赤らめて、ようやっと春庭様がこう自白なさると、


丸御殿まるごてんの姫君だと!?」

 鈴本朖すずもとあきら四ツ井よつい高蔭たかかげは、驚いて思わず大声を上げました。


 普段は常に平静を保って居らっしゃる木居宣長もくおりのりなが先生も、この時は家着いえぎ浴衣ゆかたの袖口に御手を突っ込んで腕を組み、興味津々な御表情で、若者達の話の続きを聞こうとしていらっしゃいます。


「いやいやいや。どう考えて見ても、お武家様のやんごとなき姫君と、我々ごときがおいそれと口を聞く事すら難しかろう。それがまたどうして……。」


 あきらくだんの扇子を丁寧に畳んで、うやうやしく春庭様の御手に返しながら、こう言ってしきりに首をかしげて居りました。


 はて、何が一体どうなって、この木居家もくおりけの春庭様の文机ふづくえの引き出しに、この見事な、高貴な姫君のたまわった扇子が収まる事となったのでしょうか?



明日に続く

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