其ノ十二 叫び

 息を切らして駆け寄って来た健吉は、先生と私が、もう息を吹き返す事も無く、静かに身を横たえて居るおまさの遺体に向かって手を合わせて居る様子を見て、


「ああ、おまさ、おまさだ。昨日と何一つ変わって居ない。

 先生、お優さん、おまさは……、おまさは生きて居るんですよね?」

 とこう言って、先生に詰め寄りました。


「……。」


 先生は健吉の顔を見て、黙って首を横に振りました。


「嘘だ、そんな馬鹿な! 俺は信じない。

 おまさは昨日、あんなに幸せそうに祝言しゅうげんげて居たじゃないか。こんな、こんな姿になって居るはずが無い。」


 とても現実を受け容れる事など出来ない健吉は、気持ちの行き場がどこにも見付からず、何かを大声で叫びながら、激しく濁流を落とし続ける蛇滝へびたきに向かって、走って突っ込んで行こうとしましたので、村の男衆おとこしゅう力尽ちからづくで健吉を止めました。



 明日に続く



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