其ノ七 丹後屋

〽 かずならぬ ふせやにおふる なのうさに


 宵五よいいつツ頃、地方じかた福久春姐ふくはるねえさんの三味線と歌に合わせて、孔雀柄くじゃくがらの打ち掛けを華麗にまとった染太郎姐そめたろうねえさんが、宴席で踊りをひとさし舞って居る時に、外にがやがやと車を着け、江戸で商売に成功した大店おおだな丹後屋たんごやの若旦那九平次くへいじが、もう何処かで一杯やって来たのか、相当酔っ払った様子で座敷に転がり込んで参りました。


吉原よしわら仕込みだか何だか知らねえが、歌も踊りも要らん、要らん。染太郎そめやたろう、さっさとわしの横にはべれ。」


 九平次は酒臭い息を吹きかけながら、染太郎姐そめたろうねえさんにそう絡むと、

「へえ。」

 と染太郎姐そめたろうねえさんも慣れた物腰で踊りをめ、しずしずと九平次の隣の座に着くと、おまさもそれに従ってねえさんの横に侍って箱膳はこぜんに酒の用意をしました。


 桃色の振袖を着て、髪を桃割ももわれに結った初々しい初座敷のおまさが、礼義正しく九平次と染太郎姐そめたろうねえさんに酌をしますと、

「おお、良い振新ふりしんが入ったじゃあないか。成香屋なりきょうやでまさかこんな上玉じょうだまに出くわすとはな。なあ、お秀さんよ。」


 座敷の隅で畏まって見守っていた遣手婆やりてばばのお秀は、酔っ払いの九平次に、首尾は上々とばかりに、にやりと目配せをしたので御座います。



 来週火曜日に続く

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