其ノ十一 お夏

「愚かな男の話をしましょう。

 お夏は……。生まれは隣町の、裕福な大店おおだな藍問屋あいどんや跡取あととり娘だったのです」


 高蔭の話に先生が静かに相槌あいづちを打つと、高蔭は、お夏がまだ十三ぐらいの頃に、商売に手を広げすぎたその家が没落し、その後は着たきりのぼろぼろの単衣ひとえ姿で、残された藍玉あいだまを一人でこの城下に売りに来ていた所、高蔭が気の毒に思って、自分の店で下働きの女中として働かせる様になった事などを語り始めました。


 しかし、お夏が越前屋えちぜんやで働く様になってからは、若旦那わかだんなである高蔭の肝煎きもいりで入ったために、他の使用人達にやっかみで酷い扱いを受けたりして、そのあどけない表情からは、次第に笑顔が消えて行ったのだと言います。


「しかし、その頃はお夏さんは十三やそこら、二人は今の様な恋仲では無かったのだろう?」

 と先生は高蔭にお尋ねになりました。


明日に続く

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